2020年5月21日木曜日

寿光イチオシの店 VOL.12 「粋魚 むらばやし」

5月21日、本日ようやく関西の緊急事態宣言が解除されます。
満を持して、美味しい日本酒と料理を楽しみたい! と勇んでいる方も多いでしょう。
でも、まだまだ油断しないでくださいね。
深酒や長時間の外出はせず、旬の魚介類と美酒を、ちょうどよい腹八分目で舌鼓。
そんな極上な北新地「粋魚 むらばやし」をご紹介します。


       魚、酒、米の三位一体で唸らせる、凛たる魚割烹。

ぬくもりと艶を帯びた伽羅色のカウンター席に座れば、にわかに大きな氷を砕き始める料理長・村林英和(むらばやし ひでかず)さんの姿に、誰しも圧倒されるだろう。そして、侘び寂びた風合いの鉢に、カチ割られた氷が刺身の舞台をしつらえていく。一片の笹の葉が名脇役となって、主役であるみごとな切り身が、しなやかな手に盛りつけられる。あたかもそれは、能の舞いのような趣きをも客席に供する。



いわゆる贅を尽くした日本料理とは一線を画した、素朴な美意識。それも粋魚むらばやしの美味しさの魅力なのだ。
「うちは魚本来の美味しさにこだわっていますから、余計なことはしません。煮付けも醤油だけの味つけで、極めて素直です」
魚料理の匠として北新地でも一頭地を抜く存在の村林さんの言葉に、粋魚むらばやしの大ファンである筆者は二の句もなく頷いてしまう。ひたすらに、魚がうまいのである。「魚の本当の美味しさとは、こういうものなのか!」と、舌の先から五臓六腑までがバンザイをして喜んでしまう。そんな村林さんの選ぶ魚は鮮度が命だ。和歌山沖の朝獲れの魚介類を主にして、兵庫の明石や淡路の地物にもこだわる。例えば真鯛や平目、クエと聞けば、日本酒党には垂涎の的だ。北新地では一番分厚いだろうと噂されるこの店の刺身を醤油にひたし、口へと運ぶ。ひと口噛めば、濃醇な旨味の波紋が広がり、その余韻に耽りつつ村林さんが取り揃える美酒を口に含む。魚介料理の旨味に寄り添う10種類の酒は、辛口でありながらも清楚な旨味をまとった淡麗なセレクトが中心。そんな日本酒たちが、粋魚むらばやしの料理をさらに引き立てている。


 ところで、粋魚むらばやしのオ・モ・テ・ナ・シを、もう一つご紹介しよう。それは土鍋で炊き上げる、究極のごはんである。村林さんいわく「やさしい、ごはん」なのだが、この土鍋ごはんを食べたいがため、粋魚むらばやしに行列する常連客は枚挙にいとまがない。その秘訣にも、村林さんのこだわりが隠されていた。
「まずは土鍋ですが、信楽焼の名工に行脚して、7回作り直してもらった特注品です。米の炊きかげんが抜群にいいですよ。水は和歌山の高野山系の天然水で、米そのものは富山県産のコシヒカリ。立山連峰の山の沢水で育った逸品です」

 なるほど! 無垢な魚と酒と米の三位一体は村林さんの凛たる料理人魂の現れと言っても、過言ではないだろう。

         
              村林流“秘すれば花”を感じる、匠の心構え。

さて料理だけでなく、幽玄をまとう粋魚むらばやしの器のしつらえに、筆者は村林さんの人となりを探ってみた。開店5年目を迎えた村林さんは49歳、料理人として30年のキャリアを持つ。実家が三代続く仕出し割烹店と聞き、その血筋もあってさぞかし順風満帆の道を歩んだと思いきや、予想だにしない答えが返ってきた。


「若い頃の私は人よりも器用でしたから、少し天狗になってましてね。高知での漁師料理の修行を皮切りに、東京・銀座の高級な天麩羅店や京料理店などで腕を磨きました。しかし、有頂天になっていた私に大きな転機が訪れたんです」と苦笑いする村林さん。実は三十歳を迎えた頃、島根の郷土料理店へ入ると、その料理長と運命の出逢いが待っていた。
「お前のやってるのは、料理じゃない」
 料理長からプライドを一蹴された村林さんは、包丁まで取り上げられ、半年間、坊主見習い同然の仕打ちを受けた。しかし、今思うにそれは屈辱よりも、己の料理人としての器を見つめ直すターニングポイントだったと村林さんは語る。
「魚をさばくのにも、ちゃんと意味があるのです。誰のために、どんな目的のために、どうさばくのか。魚をさばくことは単なる所作でなく、料理に向かう心づくしだということを、その師匠に教わりました」


 確かに、刺身から煮魚や酒肴へと食べ進む筆者の心にも、その意志は伝わってくるようだ。粋魚むらばやしの献立の流れには、序・破・急さえも感じる。まるで世阿弥の“秘すれば花”が、村林流の原点のようでもあった。


           煮魚のダシで食べる、究極のシンプル イズ ベスト。


さて、それでは粋魚むらばやしのこだわり、和歌山沖のキトキト魚の刺身を頂こう。厚さ3cmもあろうかという真鯛やイサキに肉厚なあおりイカ、そして今まで岩場にいたようなサザエが登場! 魚は上質の和歌山醤油で頂くと、噛みごたえの弾力以上に甘いほどの旨味が、ギュッとしみ出してくる。サザエは、鼻腔を満たす磯の香りがたまらない! その堪能の瞬間を逃さずに美味しい日本酒を流し込めば、五感をゆさぶる口福が押し寄せてくる。季節の旬によって村林さんが目利きした絶品の刺身が登場するのだから、食い道楽には見逃せないのだ。


 そして、土鍋ごはんである。炊きたての土鍋を開けたとたん、きっと貴方はピカピカの米粒とその湯気の香りに声を失ってしまうはず。それほど、この特製土鍋で炊いたごはんは逸品なのだ。
「まずは、ごはんそのものの旨味を味わってみてください。次は添えてある黄金色の生卵をかけて、どうぞ。そして、煮魚のダシをかけても召し上がれます」
筆者は、土瓶に入った煮魚のダシをおもむろにかけてみた。つまり最高の魚の旨味を引き出した醤油ダシを、最高のごはんにかけて食べるという、究極のかけごはん! まさに、村林さんらしいシンプル イズ ベストだ。


締めくくりには、土鍋のオコゲごはんを塩だけで食べる。するとどうだろう、その懐かしい美味しさの向こうに浮かんだのは、少年時代のおふくろの姿だった。肩肘張らず居心地の良い粋魚むらばやしには、家庭的な愛も隠し味になっている気がした。そんな一流一途な魚割烹へ、今宵はいかが。

■粋魚 むらばやし https://kd7e000.gorp.jp/
大阪市北区堂島1217 大日ビルB1F
電話:0663443909
営業時間:17302300(ラストオーダー2230
定休日:日曜日、祝祭日

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