2020年4月30日木曜日

寿光イチオシのうまい店 VOL.8 「酉丸」

さて、非常事態宣言が延長されるとのこと。ますます、飲食店の皆さんは、ご苦労が続くと思います。でも、コロナ収束の時には、御贔屓の客さんが萬来されることを願っています。
そんな思いをこめて、関西のイチオシ日本酒と料理のうまい店の記事を配信しています。今回は6年前の記事になりますが、パナソニックの街・門真市で、現在も人気の高い焼き鳥の名店「酉丸」さんです。
自粛期間はテイクアウト料理やお弁当もやってますので、ぜひ、ご注文をお願いします。https://www.facebook.com/toshiyuki.nakao

       

        門真への愛と食にあふれる、地産池消の炭火料理店。

地鶏の焼ける香ばしい匂いに、老若男女が笑顔をほころばしている。ありきたりな焼鳥屋とはひと味ちがう、シックなダイニング風のカウンター席。そこに昇り立つ備長炭の煙と“かどま酒”と書かれた珍しいレッテルの日本酒が、筆者の舌を誘う。家族やグループ客に人気のテーブル席はほのかな灯りに包まれ、日本酒、焼酎、泡盛など垂涎の美酒が顔を並べる。そんな「炭火焼鳥 酉丸」のモットーは地産池消の酒と料理から地元・門真のお客様と手をつなぐネットワーク作りと、オープン16年目を迎えるオーナーの中尾俊之さんは胸を張る。


「門真は庶民の町です。開店当時は地元の名門Panasonicさんなど電気関係の企業のお客様が主でしたが、今は門真に暮らす市民の方々にも気軽にいらして頂ける酉丸です」
炭火料理の美味しさ、厳選された蔵元直送の酒など酉丸の素晴らしさはすでに地元で折り紙付きだが、中尾さんの魅力はそれだけに留まらない。ここ5年ほど、門真市やお隣りの守口市の料理店・酒販店とともに「飲食店 元気塾」なる勉強会を展開。地域密着型の飲食イベント「かどま元気バル」などリボリューションを巻き起こし、地元の景気復興に一石を投じているのだ。その成果の一つが、門真レンコン焼酎「蓮の宴(はちすのあかり)」。遥かなる悠久の時代から湿地帯だった門真一帯には蓮根畑(沼)が広がり、江戸時代はなにわ野菜の代表格として上方の人たちに愛されていた。近代になって蓮根畑は減少したが、この地産品を目玉にして中尾さんたち有志は門真レンコン焼酎を開発したのだ。



「おかげさまで好評を頂き、第2弾には門真の田んぼで山田錦を育て、これで仕込んだのが“かどま酒”です。まだまだ門真の活性化のためにやるべきことは、たくさんあると思いますね」
 そんなバイタリティーあふれる中尾さんの人となりを、訊き出してみた。


        30歳で門真に城を持つ! 有言実行の元気印オーナー

尾さんの容姿風貌は焼鳥店の頑固オヤジとは一線を画した、お洒落で物腰の柔らかなムード。それもそのはず、料理人を目指す前はファッション関係のアパレル企業に勤めていたのだ。

「大学を卒業し、憧れのアパレル会社に入ったものの、バブル崩壊で業績は急転直下してました。新卒ながらリストラを推進する人事部門に配属され、人好きの性分とは真逆の仕事に疲れ、心が折れていたんです」


自分の作った書類で人が辞めさせられる。そんな刹那的な仕事に中尾さんは見切りをつけ、25歳で会社を退職。一念発起できたのは、高校時代の恩師が同じ門真市の大和田で始めた焼鳥店の手伝いだった。
「素人ながら、子どもの頃から台所で調理するのが好きでした。恩師の焼鳥店では、朝からランチの準備、そして夜中までの居酒屋と118時間近く働きました。そのしんどさに負けたくなかったので、30歳には絶対に自分の城を持とうと決心していました」
あっという間に2年が過ぎてようやく手に職が付くと、次は法善寺横丁の名店で修業。そして中尾さんは、公言通り29歳と11カ月にして酉丸を開いたのである。


オープン時は地元企業のお客様が多かったが、平成20年(2008)のリーマンショック後から状況は一変。サラリーマン客が減る中、地元の家族やグループなどの集客を5割にしようと思った。門真を愛してやまない中尾さんは地域と密着する酉丸の意義を考え、地元のお客様と一体化できるビジョンを考えた。しかし、自分一人の力では不可能。そこで閃いたのが、同じように孤独と悩みを抱えているであろう門真の料理店オーナーたちとの活動協力だった。
「レンコン焼酎やかどま酒だけでなく、日本酒や焼酎のセレクトもお客様の声に気づかされました。造り手の顔が見える、声の伝わる食材や酒を見つけ出し、私たちが丁寧に提供していくことが大事です」
中尾さんの言葉通り、地元の生産者や料理店を市民と結ぶイベント“かどま元気バル”は今年で3年目(年2回開催)だが、しっかりと地元に受け入れられている。


守口門真グルメグランプリを受賞!「手羽れんこん」の美味しさを、まずはご賞味あれ。


さて、酉丸へいらしたお客様に一度は口にして欲しい、筆者おすすめの地産地消メニューがある。それが、第1回守口門真グルメグランプリのチャンピオンとなった「手羽れんこん」だ。地元の子どもたちの食育にもこだわる中尾さんオリジナルの一品で、肉厚な手羽先の中に練り込まれた蓮根の歯ごたえがたまらない! ジューシーかつ蓮根のシャキシャキ感も渾然一体となった旨味には、すっきりしたレンコン焼酎や淡麗な純米吟醸酒がふさわしいだろう。



そして定番人気は、炭火焼鳥の盛り合わせ。こちらは人気のつくねを筆頭に、丹波産の地鶏も用意されている。シメには、イチオシのとりめしだ。絶品の鶏ガラスープとともに、お楽しみあれ!



酉丸の料理は焼き物30種、酒肴や一品を含めると60種類を超える。酒は日本酒13種、焼酎50種、泡盛13種と多彩な品揃えで、平均客単価も4,200円とリーズナブル。
「たまに出かける外食に、必ず来てもらえる門真の味がここにある。そんな酉丸になりたいと思っています」
 子どもが成長し、7年ぶりに酉丸を訪れた家族連れが、
思い出の酉丸の味に感動してくれた。子どもから渡された店の絵に、中尾さんは思わず目頭を熱くしたと言う。そんなあったかくてお洒落な酉丸で、今夜は門真の食と酒をしみじみ楽しんでみませんか。

■ 炭火焼鳥 酉丸(とりまる) https://www.facebook.com/toshiyuki.nakao
大阪府門真市本町9-12
電話 06-6904-6587
営業時間:173025002400ラストオーダー)
定休日:日曜日、祝祭日、お盆・正月

2020年4月25日土曜日

寿光イチオシの店 VOL.7 「酒と肴 Sai」

自粛の宅飲みを楽しくする、関西のうまい店の取材記事を、筆者自らご紹介!
北新地「酒と肴 Sai」さんは、ご夫婦できりもりする隠れ家のような、大人の夜にふさわしい美食空間。
選りすぐった食材に、こだわりの酒器や皿・鉢をしつらえ、とりわけ日本酒には大阪錫酒器がうれしい。
極上のラム料理の紹介記事を、宅飲みのツマミにどうぞ。



              VOL.7 「酒と肴 Sai」 (2016年2月取材記事)


       極みのラム肉と魚に酔いしれる、おしどり夫婦の新割烹。

北新地の喧騒を一歩離れた、永楽町北通り。その片隅で、極上のラム料理が味わえると健啖家たちに噂を呼んでいる新割烹が「酒と肴 Sai」だ。日本酒にもこだわるとあって、玄関には錫の店名プレート。店内には、みごとな錫器を飾るケースが据わり、オーナーの村岡夫妻のセンスがキラリと光る。シェフとして腕を振るうのは、奥様の村岡 栞(しおり)さんだ。



「ラム肉は北海道で屈指の石田綿羊牧場から、直接仕入れています。希少なラム肉で、赤身と脂身の仕上がりが素晴らしく、たっぷりと旨味を味わえますよ。ラム好きなお客様からは、うちの肉は他店のようなクセがまったくないとお褒めを頂いてます」
確かに、肉質は驚くほど柔らかく、とろけるような甘さは牛刺しを超えるほどだ! Saiでは新鮮な生肉はもちろん、自家製ダレに漬けたスペアリブなど12種類のラムメニューを提供している。


「ラムは、うちの看板料理になりましたが、木津市場から毎日仕入れる、和歌山産の魚介類も上物ばかりです。どちらも日本酒を名脇役にできるんですよ」
そう言って錫の酒器を勧めてくれたのが、ご主人の将侍(しょうじ)さん。お客様をもてなし、懇切丁寧に料理の紹介や酒のセレクトをアテンドしている。栞さんが銘醸地の広島県西条市の出身だけに、二人とも日本酒への造詣は深い。ただ、流行や人気の酒ではなく、長期熟成、発泡系など料理にふさわしい品質を取り揃えている。Saiのゲストは40歳半ばから70歳前後の男性が多く、辛口ですっきりとした、香り控えめな酒が好まれると言う。ラム料理を含め、魚介料理15種(旬によって入れ替え)、野菜料理20種、酒肴12種を合わせれば、約50種類の美食。個性的な酒膳が、グルメの舌を唸らせているのだ。


        調理師学校の同級生が、二人三脚で夢を叶える。

Saiの常連客が惚れ込むのは料理と酒のみならず、村岡さん夫妻のコンビネーションの良さだ。この世界ではまだまだ若手ながら、北新地の料理の鉄人や酒の巨匠からも一目を置かれているのだ。ゲストに寛ぎと安らぎを醸し出す“あ・うん”の呼吸は、お互い調理師学校の同級生の頃から始まっていた。

「僕は、東大阪の実家が居酒屋でした。卒業後は母を手伝い、ホテルの和食店、給食会社でも修行していました」

と、将侍さんは料理人の血筋のままに進んできた。
「私は卒業してから北新地のステーキ店やケータリング会社に勤めた後、2008年に主人と本町に広島酒限定の居酒屋を開いたのです。でも、直後にリーマンショックが起こって景気が冷え、前途多難のスタートでした」


出鼻をくじかれたと当時を振り返る栞さんだが、二人は苦境を乗り越えて2014年には夢だった北新地にSaiをオープンした。それを後押ししてくれたのは、錫が結んでくれた御縁だと村岡夫妻は声を揃える。
「本町時代から、伝統工芸品である“大阪浪華錫器”を伝承されている今井達昌氏に御支援を頂いています。うちのお客様には、日本酒の旨味を引き立てる錫の不思議な魅力も存分に楽しんでもらいたいのです」
錫器は高価な装飾品ではなく、日用品として使ってなんぼ! そう自負する今井氏の薫陶を受けた村岡夫妻には、優しい錫の輝きがよく似合う。錫の他にも、本町の頃からお客様だった大阪府職員とコラボし、天満切子、金剛すだれなど伝統工芸品に惹かれた。夫妻は、2周年を迎える今年は伝統文化の趣向を凝らしたイベントも催したいと抱負を語ってくれた。

          ラムの甘さに驚嘆! 魚のしつらいに脱帽!

さて、いよいよお待ちかね! Saiご自慢のラム肉の登場だ。選りすぐりの部位の中から栞さんが供してくれたのが「北海道産ラム肉のたたき(¥1,000-/税込)」だ。赤身の美味しさは先に述べたが、脂身の炙りもまた絶品! ひたすら美味しい羊を育てるために、島根県から北海道へ移り住んだ石田綿羊牧場のこだわりが窺える。
クセがない脂の旨さは、後味のしつこさをまったく感じない。栞さん考案のピリ辛ごま塩を薬味に添えれば、熟成酒にもピッタリだ! 


そしてラムと肩を並べるのが、和歌山の網元から送られる旬の魚介類! それらをふんだんに使った「酒肴 お造り盛り合わせ(¥1,520/税込)」は、目にも美味しい贅沢な一皿だ。季節の旬によって品変わりするが、今夜は左から、貝付きホタテのタルタル、ノルウェー産サーモン塩引き造りとハラミ炙り、ヒラメの生ハム仕立てと練りウニ巻き、エンガワ炙りとポン酢たたき、北海道産ミズ蛸の湯引きと吸盤炙り、寒鰆のヅケとモロミ醤たたき、そして付合せは、レンコンピクルスなど豪華絢爛! これだけあれば、たっぷりと日本酒を堪能できるにちがいない。


「割烹というよりも、肩肘の張らない北新地の居酒屋として頑張っています。どなたにも御値頃な店ですから、気軽にいらして下さい」
寄り添う二人の笑顔が、筆者の酔い心地を和ませる。
カウンター5席、テーブル8席、平均単価は一人¥5,000からと、北新地ではすこぶる魅力的だ。
さて、ラム料理と日本酒の新しいマリアージュを、今夜は「酒と肴 Sai」で心ゆくまで味わってみてはいかが。

■酒と肴 Sai
大阪市北区曽根崎新地1-11-9 京屋ビルB1
電話:06-4795-5088
営業時間:17:002600LO フード2500、ドリンク 2530
定休日:日曜、祝祭日

2020年4月19日日曜日

寿光イチオシの店 VOL.6 「和 藤もと」

自粛生活は、食のストレスもたまりますね。あそこの店のカウンター席で、旬の肴とお気に入りの日本酒で一杯やりたい! そんな気持ちに応えるべく、テイクアウトやケータリングも始まっていますね。
今回のイチオシ店は、まさにミシュラン一つ星店でも活躍したオーナー兼料理長で、垂涎の割烹メニューをテイクアウトできる「和 藤もと」さんのご紹介です!
コロナが収束したら、ぜひ、ご予約を! 早くしないと、ずっと満席になりますよ。



        美味しさの可能性を追求する、孤高の日本料理の庵


筆者が今、一番味わってみたい料理店の取材が叶った。

梅田の喧騒からひと足離れる豊崎町に、あたかも茶人の草庵のように佇む「和 藤もと」は、美食家、健啖家の間で噂になりつつある新進気鋭の日本料理店だ。なにより、オーナー兼料理人の藤本和也(ふじもと かずや)さんは、筆者と酒食について切磋琢磨する間柄で、かつて北新地の著名な割烹で料理人を務めてきた腕前。ミシュラン一つ星店で修めた至高の技と人となりを持って、今春、開店したのが「和 藤もと」なのだ。
「当店の御持て成しは、コース料理のみ。お酒は日本酒が基本で、コースの一品ごとに合わせてお楽しみ頂けるペアリングが、私のコンセプトです」
冴えわたる藤本さんの技を目にするカウンター席は、6名掛け。茶室風のお座敷は、小グループにおススメの67名と、どちらもゲストの食事と会話の邪魔をしない設計。落ち着ける雰囲気も功を奏して、平日はビジネス利用客の接待、週末にはご近所の夫婦や家族連れが常連客となっている。
ゲストの誰もが酔いしれる美食は、天然物の食材とオリジナル調味料にこだわり、11品が登場する至高のコース料理(御一人様 \10,000/税別)。魚介類の御造りは、獲れたてキトキトの刺身だけでなく、藤本さん独自の熟成方法を使って旨味を醸す。そんな旬の魚一種類ずつを、趣き深いデザインの一皿に美しく盛るのが藤本流! さらに、鮪などの赤身魚は卵黄醤油、白身の真鯛なら煎り酒、サンマは肝醤油と、枚挙に暇がないほど豊富な味付けで提供。なるほど、味わう美酒も、すこぶるつきにうまいわけだ。
 

「私は山形県産の庄内野菜、兵庫県の但馬産野菜がお気に入りで、とりわけ米は、但馬の無肥料・無農薬のササニシキを選んでいます。北新地時代に但馬の篤農家の方と親しくなり、直接手に入れています。土作りと沢水にこだわり抜いた米で、うちの土鍋ご飯に欠かせません」
 料理の撮影時、藤本さんが蓋を開けた炊き立ての土鍋ご飯から立ち昇る湯気に、筆者は垂涎するばかり! ピカピカな米粒だけでなく、旬の食材も入った炊き込みご飯風に口元がほころぶ。「和 藤もと」のコース料理には、必ず、この土鍋ご飯が付いている。さらに、日本酒ファンにとってイチオシなのが、コースの真ん中で供される八寸だ。
「通常、八寸は料理の始まりに出されますが、厳選した日本酒を心ゆくまで味わってもらいたいので、私は敢えて、お客様がひと息つくコースの半ばで提供し、ゆるりと酒肴を嗜んで頂きます」

 なるほど! けだし名案だ! しかも、日本酒に精通する藤本さんがセレクトしている美酒は、常時30種類ほどで、これらを3週間ごとに変えるコース料理に合わせ、45銘酒を入れ替えると言うから脱帽だ! 食材、しつらい、器、さらに酒と、「和 藤もと」らしい孤高の流儀が垣間見える。


            食材の旨味、酒の旨口、うまいの真髄を愛でる。

藤本さんは食材の吟味から調味まで、無添加・無化調へ徹底してこだわりながら、まだまだ一流の腕には程遠いと謙遜する。腕を磨いた修行時代を聞けば、さすらいの板前という表現がピッタリだ。
「兵庫県の小野市出身で、20歳から地元の和食店で働きました。それからは大阪・茨木市の会席料理店、京都・先斗町の京料理店を経験して、北新地の割烹に入りましたが、きっかけは良き先輩の紹介があったればこそでした」


3年から4年ごとに、さまざまな料理やしつらいを学び、腕前と感性を鍛えた藤本さん。かつては美容師も志し、手先を動かす職人仕事が好きだった。敢えて一本独鈷な板前修業を選んだのも、型に縛られない自分流の工夫を手にしたかった。いつか自分の店を持つのを夢見て、料理のみならず、華道や茶道も習ったほどの探求心と経験の積み重ねが、和 藤もとに結集されていると筆者は感じる。その一つとして挙げるのが、“魚を寝かせる”こと。いわゆる、熟成魚である。




「昨今、牛肉だけでなく鮮魚も熟成人気です。その理由は、獲れ立てより、数日間、冷温貯蔵することでアミノ酸やイノシン酸といった旨味成分がグッと引き出されるから。熟成した刺身は、噛めば噛むほど甘さが出るんですよ」冷蔵熟成する秘訣を訊けば、ただ、ほほ笑むだけの藤本さん。さすらいの我流で鍛えた知恵を、簡単には披露しないのだ。和 藤もとで舌鼓を打つゲストは、40歳から50歳の男女が半々。ゆっくりと時間を取りながら、食材と日本酒のペアリングを堪能して欲しい。そして、静かな雰囲気の中で大人の日本料理や器の粋を楽しんでもらいたい。本物の美味しさとは何かを常に考え、和食を愛でる姿こそ、藤本さんの理想なのだ。


        アートを堪能するような、至福の和膳に酔いしれる。

さて、四季折々、希少かつ本物の食材を揃える「和 藤もと」で外せない料理をコースメニューからご紹介しよう。まずは、美酒とペアリングしながら、ゆったりと癒されてほしい「八寸」。なんと、7種類の小鉢をしつらえる。献立は、時計回りに「岩手の二子芋唐揚げに、筋子の味噌漬け」「黒イチジクの胡麻クリーム掛け」「子持ち鮎の甘露煮」「菊菜と菊花と松茸のおひたし」「すっぽんの煮こごり」「鱧と松茸の天麩羅、餅ぎんなんの唐揚げ」と、真ん中は「シャインマスカットの白和え」。いかがだろう。この豪華な八寸だけで、左党は舌なめずりして美酒を堪能できそうだ。


そしてコース〆の定番は、土鍋ご飯! ホカホカ湯気の中に、焼き穴子とまこも茸、セリの香りが芳しく食欲をそそってくれる。


「コースは、少ない品数でしたら¥8,000からもできますし、豪華版のメニューもご予算に応じていたします」と藤本さんからの嬉しいメッセージも頂いた。
今夜は梅田から徒歩10分ほどの「和 藤もと」で、本当の美味しさとは何かを、見つけてみませんか。

◆和 藤もと https://wafujimoto.owst.jp/
大阪市北区豊崎町3-6-11
電話:06-6131-9710
営業時間:1800~ラスト
定休日:不定休







2020年4月15日水曜日

寿光イチオシの店 VOL.5 「吟醸バー 石橋」

コロナショックで、心が憂鬱な日々。誰もがほっこりと、人情味のある酒場や料理店で癒されたい気持ちになっていると思います。
そんな気持ちにピッタリの、下町の東淀川区淡路にある日本酒BARが「吟醸バー 石橋」さんです。
ご店主の心温まるもてなしと、日本酒愛を感じてください!



     旨い生原酒とおふくろの味に寛ぐ、ホーム スウィート ホーム。



阪急電車沿線の淡路といえば、庶民の町。昭和のムードを残すアーケイドと下町の風情が懐かしい。そんな街角で、全国の蔵元も訪れる極上の日本酒を楽しめる小料理店が「吟醸バー 石橋」だ。
「店構えは、一見、洋酒BARに見えそうですが、若いお客様から長年の常連さんまで、日本酒を通じて親しくなって下さいます。『ただいま』、『おかえり』。そんな声がいつも聞こえるお店なんですよ」

女将の石橋幸代(いしばし さちよ)さんは、ふくよかな笑顔でカウンターに手料理を並べる。


大皿に盛られた、煮物や焼き魚など30種類ほどのメニューは、おふくろの味そのもの。しかも、一品¥400から季節の旬が味わえ、一人鍋料理も1.5人前分で¥1,000というから驚きだ。そして、日本酒は石橋さん自らが利き酒した無濾過生原酒をメインにして、25種類ほどがその日ごとに入れ替わって提供される。こちらも、利き猪口でまずは試飲をして気に入った銘酒を注文してもらうという真心サービスだ。どの日本酒もグラスへ溢れんばかりに注がれ、すべて一杯¥900とリーズナブル! カウンター9席だけの店内だが、お客様には近隣の大学教授や海外からの留学生、医師まで多彩な顔ぶれが揃い、わざわざ神戸や京都からもやって来る。お忍びの有名芸能人やスポーツ選手も、来店している。聞けば、吟醸バー石橋に通いたいがために、淡路へ引っ越して来たご夫婦もいるそうだ。そして、誰もが肩書にとらわれず、仲良く酌み交わすスィートホームのような店と語るのが、週末に幸枝さんを手伝う娘の後藤加奈子(ごとう かなこ)さん。

「お客様は、いつもお店や母のようすをつぶさに伝えてくれます。日本酒のイベントを催した時などは、満員のお客様で、カウンターの中も立ち飲み状態なんですよ(笑)」
母と娘を見守るお客様の温かい人情味も、吟醸バー石橋の魅力なのだ。


          亡き夫の寿司心と、人とのお付き合いが原点。

吟醸バー石橋は、“癒しの宿り木”のような店だ。訪れるゲストは美酒と料理だけでなく、女将と常連客のやりとりに、いつの間にか和んでしまう。その理由に、筆者は石橋さんの人となりを感じる。
「亡くなった主人は、東淡路で小さな鮨店を営んでいました。私は看護師をしながら夫を手伝っていた頃、佐渡ガ島の地酒を飲んで、初めて本物の日本酒の美味しさを知りました。それからは、当時の鮨店には少なかった地酒を置くことにしたのです。ただ、夫は頑固一徹な職人気質で、鮨は一流でしたが、お金儲けは不器用な人でした。でも心底、お客様を大事に思う人でした」
 亡きご主人は十三(じゅうそう)にある有名鮨店を経て、23年前に独立。順風満帆とはいかなかったが、美味しい鮨をより安く、満腹まで食べてもらうことがご主人の信念だったと石橋さんは振り返る。


「夫は子どもの頃から、鮨が食べたくて仕方がなかったけれど、金銭的にそれが叶わなかったそうです。ですから、自分が握る鮨は、学生さんにもお腹いっぱい召し上がってもらう主義でした」
そんな鮨店だったから、お客様と家族のようなお付き合いが生まれた。ご主人の誠実な真心に、看護師だった石橋さんの愛情を添えた鮨は、ゲストの心まで癒すご馳走だったにちがいない。ご主人亡き後、石橋さんは鮨店を日本酒と小料理の店に変えた。朝から夕方までは看護師、それから深夜まで居酒屋の女将として頑張る石橋さんを常連客が盛り立てた。幼い娘だった加奈子さんはご近所の人たちに見守られながら育ち、嫁いだ今もご縁が続いている。そして、加奈子さんと同世代の若い日本酒ファンが、吟醸バー石橋に通い詰める。



       二軒目にも寄りたくなる、ちょうどの料理でリーズナブル。


吟醸バー石橋の人気メニューは、日本酒との相性を考えた三種の「つき出し(¥400/税込)」だ。石橋さん手作りの胡麻豆腐や旬の珍味のほかに、大皿料理から選ぶこともできる。この一皿は、右からポテトサラダ、いくらおろし、むかごで、キレのいい新酒の純米吟醸と合わせたい。

そして、旬の魚の刺身もいろいろ。筆者は好物の「紋甲イカのお造りと生ウニ(¥1,000/税込)」を選んだ。鮨職人だったご主人から魚介類の目利きを教わった石橋さんだけに、鮮度は抜群! 甘いイカとウニの味わいを無濾過生原酒が引き立てる。


ほかにも、ホヤの塩辛など珍味も豊富で、冬には一人鍋料理も楽しめる。蔵元見学や酒旅行で入手した全国各地のおつまみも登場するそうで、サプライズも期待できる。しかも、平均客単価は¥3,500前後とリーズナブル!
「二軒目やちょい飲みにも、いらして下さい。日本酒好きなお客様が、我が家と思って来てくださるように頑張りたいと思います」
そう語る女将さんの笑顔や心を癒す美酒・美味と出会いに、今夜は吟醸バー石橋へいかが。

大阪市東淀川区淡路4-5-7ツイン淡路1F
電話(女将携帯):090-8468-3570
営業時間:17:002300
定休日:日曜、祝日



2020年4月11日土曜日

寿光イチオシの店 VOL.4 「きん弥」

非常事態宣言で、神戸も自粛要請中。それでも、孤軍奮闘している路地中の名店が「きん弥」さんです。三宮界隈では知る人ぞ知る、ミシュラン級の酒と肴!
絶品は、「半殺し」と命名された鯖寿司です。


        究極の鯖が日本酒ツウを虜にする、三ノ宮の隠れ家割烹。


うまい魚を食べさせる店は関西の繁華街のそこかしこに犇めいているが、「うまい鯖」となれば話はちがう。日本酒ツウにとって、大衆魚の鯖は晩酌の友。とりわけ“きずし”と呼ばれる酢でしめた鯖や、箱寿司の“バッテラ”は伝統の浪花魚菜である。しかし、そんじょそこらの鯖料理が足元にも及ばない逸品でもてなす割烹が、神戸三ノ宮にある「きん弥」だ。常連客があまりの美味しさに“半ごろし”と名付けたしめ鯖は、あたかもミディアムレア! 半生極上のぶ厚い鯖の身に、ほんのりと優しい味わいの酢がしみて、ありきたりなきずしとは一線を画している。


「腹の身がしっかり肥った25㎝ほどの鯖を選びます。産地は東北から九州までいろいろですが、味の秘訣はしめる酢のブレンドにあります。ただし、それは企業秘密ですよ」
そう言って、丁寧な仕事をカウンター越しに見せてくれるのが、料理長の成田欽弥(なりた きんや)さん。鯖料理を筆頭に、“鯛シュウマイ”や“生ウニ入り味噌汁”が関西の新聞・雑誌に紹介される、知る人ぞ知る名店のオーナでもある。きん弥はカウンター10席、座敷6席の小ぢんまりとした店内だが、昭和レトロな雰囲気と成田さんの技ありの肴を目当てに、日本酒好きな年配客でにぎわう。そんな常連客を虜にしているのが、半ごろしと人気を分ける“鯖寿司”だ。脂ののった寒鯖はもちろん、シャリの美味しさに筆者は唸った! ピリリとした山椒と刻んだ大葉を混ぜ込んだ絶妙の隠し味! 特性ブレンドの酢を使ったシャリの口当たりも、しっかりと食べごたえがある。


「新米じゃだめなんですよ。米の乾いた古米の方が、酢の味が効いて、しかもベタつかないから、鯖の美味しさを引き立てます」
 成田さんが用意してくれた一杯は、この鯖寿司にふさわしい青森の陸奥八仙(むつはっせん)。濃厚な純米酒のコクが、鯖の旨みと渾然一体となって胃の腑に落ちれば、誰もが口福のため息を洩らしてしまうだろう。

            元・クリエイターのセンスが光る、独創的な献立。

 きん弥の献立は鯖料理のほか、朱塗りのカウンターに並ぶ大皿料理やおでんなど10種類。だが、どれもが独創性に富んでいる。そのアイデアと工夫の理由を訊ねて、なるほどと得心した。

「料理は独学なんですよ。36歳できん弥を始めるまでは、録音スタジオでミキシングの仕事をしてました。技術がアナログからデジタルへ変わる頃に、一念発起して料理人へ転身したのです」
 大阪芸術大学を卒業し、マスコミ業界に入った成田さんだが、根っからのアナログ派だった。出身は関西から遥か彼方の青森県津軽。少年時代から見知らぬ関西の地に憧れていたと、笑顔を浮かべる。しかし、かつての敏腕ミキサーが、いきなり料理人として通用したのだろうか。


「実は、ほとんど板前修行はしていません。私の回りにはいろんな仲間や友人がいまして、よく彼らを集めて、手作り宴会を催していました。みんな『お前なら、すぐ料理人になれるよ』と後押ししてくれましたよ」
 きん弥を開店するやいなや、そんな身内が足しげく通い始め順風満帆となった。しかし、平成7年に発生した阪神淡路大震災で、きん弥の店内は悉く崩れ、水や電気、ガスも途絶えてしまった。
「文字通り路頭に迷って、道路端に七輪コンロを並べて焼き鯖を売りました。これが好評で、見知らぬお客様から“いかなごの釘煮”を売る提案も頂き、再起する勇気をもらいました」
 決して諦めなかった成田さんの気骨には、シバれる津軽に育った“じょっぱり魂”を垣間見るようだ。


            生涯忘れ得ぬ、究極の鯖料理との出逢い。

 28年目を迎えたきん弥は、日本酒へのこだわりも素晴らしい。成田さんは、オープン当初に秋田県の酒販店と出逢い、地元にあふれる灘の定番酒と差別化を図って、爾来、東北の地酒にこだわっている。今では、成田さんが吟味した15種類の日本酒を常時取り揃えている。これにピッタリの「半殺し(¥1,200/税込)」は、しめる酢がとっておきなのだ。当初、成田さんは鳥取県の倉吉にある極上の酢に目をつけたが、あまりの高値に元・クリエイターの血が騒ぎ、自ら同じ味わいの酢をブレンドして仕上げることに成功した。鯖の身は柔らかく、味はまろやか! これには東北のコシのある純米酒を、ぬる燗で合せたい。


 そして筆者から舌も心も奪ったのが、予約しなければ口にできない「鯖寿司(¥2,500/税込)」。 暑さ1㎝近い切り身! しっかりとしたシャリに大感激! 大葉と山椒の緑を散らせた香りに、思わず唾が湧いてくる。醤油を使わずそのまま食べれば、成田さんの的を得た味つけの工夫に脱帽だ。誰もが生涯忘れ得ぬ鯖寿司と絶賛し、リピーターの多さから、きん弥ではクール便でも販売している。また煮物も人気で、この日は皮つきの鯨を塩味だけでじっくりと煮込んだおでんが、仕上がっていた。



平均客単価は¥4,000~¥5,000。営業時間はお客様が帰るまでと、心憎い答えが返って来た。神戸・三ノ宮で屈指の鯖料理! 今夜は足を伸ばして、きん弥で一杯いかが。


神戸市中央区中山手通1-7-22 鈴木ビル 1F
電話:078-391-1714
営業時間:1:00~お客様が帰るまで
定休日:日曜、月曜、祝祭日


2020年4月9日木曜日

寿光イチオシの店 VOL.3 「大阪焼トンセンター」

自粛が明けたら、真っ先に行きたい立ち飲みイチオシの店「大阪焼トンセンター」さん!
焼トンやホルモン系の串焼きに、60種種以上の日本酒も超リーズナブルでっせ~。


裏ナンバの行列店! ホルモンと日本酒がそそる、絶品の立ち飲み処。


ミナミの新名所として賑わう“裏ナンバ”をご存知だろうか。ここ数年、吉本興行の本拠地であるなんばグランド花月の東側にイタリアンやスペイン風バルの名を掲げるこぢんまりとした店舗が軒を連ね、週末ともなれば安くてうまい酒場をさまよう健啖家でごった返す。その玄関とも言える一画にデンと座る「大豚(だいとん)」と銘された菰樽。そんな銘酒、あったっけ? と看板を見上げると、「大阪焼トンセンター」のユニークな店名に笑ってしまう。食欲をそそるホルモン焼きの匂いに誘われ店内へ入れば、懐かしい昭和レトロな立ち飲み屋が目の前に広がる。油と炭の匂いがしみた店内は、大阪の鉄板漫画“じゃりんこチエ”さながらである。



30種類ほどのホルモン串と一品料理、そして80種類の日本酒を気軽に楽しんで頂けるのが、当店のモットーです。炭火で焼いた豚のホルモンは、美味しい日本酒にめっちゃ合いますよ」
 そう言って、白い煙りの中から笑顔を覗かせるのが、店長の大歳 学(おおとし まなぶ)さん。日本酒に精通し、全国の蔵元を招いて店内イベントも催している酒匠だ。大歳店長をはじめ若いスタッフがサービスする大阪焼トンセンターは、20歳代の若い客から50歳代の日本酒ツウまで幅広い人気。その理由は、大阪庶民的な“お客様が自分で酒を注ぐセルフスタイル”だ。
「店先の冷蔵ケースに並んだ日本酒には、銘酒ごとに赤、黄色、緑など数種のシールが値段別に貼ってます。自分が飲みたい一升瓶を取り出し、指定のグラスになみなみと注いだら、シールの色を申告するだけです。一杯¥350円の格安な美酒もありますよ。ホルモン焼きとあれこれ楽しんでも¥1,800ぐらいですから、コストパフォーマンスの良さに、皆さん、思わず手が伸びます」
見ず知らずの人が肩を並べ、いつしか隣り合せで日本酒談義に花が咲く。そんなほのぼのとしたシーンも、大阪焼トンセンターの魅力なのだ。





信念はずっと「庶民の料理と酒で、誰もを笑顔に!」

1100人を超えるお客様をもてなす、大阪焼トンセンター。その魅力は料理、酒、雰囲気、サービスのすべてが庶民的であること。それは店長として4年目を迎えた大歳店長の信念とも重なる。

「高校時代から地元・姫路市で、ホテルの洋食レストランの調理アルバイトを始めました。それがきっかけで、料理人に憧れました。フレンチを皮切りに焼鳥や和食店を経験し、独学ながら、自分が目指す理想の店にようやく辿り着きました」
 調理師学校ではなく、あくまで現場主義の叩き上げ。上司や先輩から料理の技は教えてもらえず、必死に盗んで修業した。そんな努力を重ね、神戸の北野ホテルでもコックを務めた大歳店長だが、本当の美味しさとは何なのか? と自問自答を繰り返すようになった。
「悩んだ末にいつも有難かったのは、人のご縁です。思えば転機が訪れた時は、いつも僕の目指したい道を示してくれる恩師や先輩たちがいました」
 大阪焼トンセンターへ勤めたのも、そんな縁つながり。姉妹店の“たゆたゆ”へ紹介され、ホルモン料理と日本酒をメインにした画期的な居酒屋に驚いた。お客様と接する内、立ち飲みの短時間であっても、日々の楽しみや癒しとなる酒場の在り方こそ、自分が理想とする料理店の姿だと得心した。それには作り手の顔が間近に見える料理と酒が大切と語る通り、大歳店長は混雑する店内でスタッフと額に汗しながら奮闘する。そんな大歳店長を、酒の神様は放っておかなかった。今では、全国の美味しい日本酒を選ぶ舌も会得し始めている。その秘訣は? と筆者が訊ねると、人懐っこい表情がこぼれた。
「母親が根っからの日本酒ツウでして(笑)。その遺伝子ですかね」
 なるほど! これは筋金入りの酒匠の血筋だ。


蔵元も絶賛! 絶品ホルモンの秘密は、現場主義。

ホルモン串と相性がいいのは、コクのある生もと造りや山廃仕込みの純米酒、吟醸造りの生原酒だ。確かに、筆者が頂いたチョウ丸(ぶつ切りの腸)、ノドブエ(声帯の軟骨)、ガツシン(胃袋の一部)など、噛めば噛むほど旨味がとけ出すホルモンと抜群の相性だ! 一番人気のメニューは「おまかせ五本串盛り(\780/税込)」。その日ごとに変わる特選のホルモンがたっぷりで、これだけで日本酒二合は飲めてしまうと、大歳店長は胸を張る。




「部位が毎日変わるのは、豚の本場・鹿児島県など信頼する畜産処理場からのおすすめによります。新鮮で珍しいホルモンを食べれることも、食い倒れの大阪人にはうれしいでしょう」
 さらに筆者が舌を巻いたのは、トロットロに煮込まれた「肩なんこつのコラーゲン皿」(¥380/税込)だ。大阪焼トンセンターでは、スタッフが畜産処理場へ毎年足を運ぶ現場主義。そこから生まれた限定品だ。ホルモンにもならないと捨てられている肩の軟骨を、丸一日じっくりと煮込めば、プルップルのコラーゲン料理に大変身! 美白と美肌にこだわる女性客が絶賛する、超格安なごちそうになった。それが証拠に、昼下がりの1500からオープンする大阪焼トンセンターは、土・日ともなれば、女性グループや独り飲みする女傑もやって来る。蔵元も絶賛する安うてうまいホルモン串と日本酒の立ち飲みへ、みんなで連れ持っていこら!



 ・アドレス

大阪焼トンセンター  https://uranmb.com/764
大阪市中央区難波千日前3-19
電話:06-4396-8109
営業時間:15002500L.O 24;30
定休日:不定休(基本的に年中無休)

2020年4月4日土曜日

寿光イチオシの店紹介 VOL.2 「馳走いなせや」

さて、祇園や上七軒といった名所にはなくとも、私が京都でこよなく愛し、日本酒への愛があふれる隠れ家をご紹介します!
東京から京都へお越しくださる日本酒ファンの皆様、ここは、関西の美酒の坩堝です。

VOL.2 「馳走いなせや」


日本酒と食材の作り手を主役にする、「地産馳走」の割烹。


ゆかしい京町屋と洗練されたショップが共存する京都の烏丸界隈。その三条通りを東へ入った柳馬場に佇む「馳走いなせや」は、築90年を超える町屋を生かした瀟洒な店構え。今や知る人ぞ知る、日本酒とご馳走ざんまいの割烹だ。趣きのある路地を玄関へ歩む足元には、京都の町名が刻まれた陶板がしつらえてあり、思わず都会の喧騒を忘れさせる。生粋の京都人であるオーナー・高田佳和氏の雅なセンスが香る。だが店内に入れば、酒欲をそそる匂いが鼻先をくすぐり、誰しも垂涎してしまうだろう。そのわけは、馳走いなせやのモットーが「酒を手造りする蔵人や、食材を山や海で獲る匠の心を伝えたい」に収斂されているからだ。



「大将(高田氏)の志をスタッフ全員が共有して、一杯の酒、一皿の料理へ生産者の方々の思いが映えるように、真心を尽くしています。私自身、冬場には蔵元へ参り、酒造りをお手伝いしながら勉強をさせて頂いています」
 常連客に人気のカウンター席で、自慢のご馳走を供してくれるのが、料理長の村上聡孝(としゆき)さん。弱冠32歳ながら、高田氏の薫陶を受けて板場を取り仕切る酒肴啐啄の匠である。馳走いなせやには約50種類の料理、40種類の日本酒が用意されているが、その相性の良さを考え、お客様へ提供できるのが村上さんの腕前だ。いわゆる、ありがちな薄味の京料理とは一線を画し、馳走いなせやがこだわる無濾過生原酒ならではの無垢な旨み、濃厚なボディーにふさわしい味付けを工夫している。
例えば、看板メニューの地鶏鍋のダシは、野趣あふれる鶏肉の旨味や脂を包み込む甘辛い醤油ベース。もちろん、地物野菜の滋味とも合わさり、箸が進むごとに冷酒のグラスを飲み干してしまう。
「日本酒も食材も、当店では地元関西の生産物を優先します。つまり、季節の旬や産地直送の本来の姿。”地産馳走”ですね」
 それが高田イズムの真骨頂と、村上さんは胸を張る。



蔵元と酒を愛し、日本酒の旨味を探求する料理長。

さて献立だけでなく、日本酒の造詣にも非凡な才を感じさせる村上さん。調理師学校を卒業後、フレンチや和食を数年経験しているが、馳走いなせやとの出会いが自身の料理人哲学を開眼させたと言っても過言ではないようだ。
「毎年、蔵元へ参るようになってから、お客様との日本酒交流を催す喜びを実感しています。杜氏や蔵の方々の熱い思いが、馳走いなせやに満ちていますよ」
 休日には、伏見や京都北部、滋賀県の蔵元を招いての昼下がりの日本酒会を催し、村上さんの料理が膳を彩る。
むろん、村上さん本人の舌で吟味した蔵元酒にふさわしい食材、献立、味付けを編み出さねばならない。そして、参加者からは絶賛の声! 蔵元や杜氏も絶妙のマッチングに舌を巻くそうだ。筆者が思うに、村上さんは、かつて他店の修行では知り得なかった無濾過生原酒の旨さの魅力にとりつかれたにちがいない。それが証拠に、合わせる地元野菜の旨味にもこだわると言う。
「野菜は、京都の蔵元さんの酒造好適米を作っている農家からも仕入れています。例えば、伏見の農家の九条ネギ、綾部市の農園の賀茂ナスなど、甘みの濃い原種を仕入れています」
 単なる京野菜ではなく、日本酒の酒造好適米を育てる
のと同じ土壌で収穫した野菜を使う徹底ぶりだ。また、魚介類は、オーナーの高田氏が全幅の信頼を置いている伊勢の漁師から地物を仕入れていると聞き、こちらも日本酒ツウには見逃せない。



濃厚な3種の地鶏鍋、淡白な生麩の煮物が好対照!

では、馳走いなせやの一番人気を誇る「地鶏のすき焼き(¥1,800/税別)」からご紹介しよう。柔らかい歯ごたえ、ジューシーな旨みを3種の地鶏で味わえるのが特長だ。丹波産の村田地鶏、篠山産の高坂地鶏、そして亀岡産の七谷地鶏(しゃも)を取り合わせて、九条ネギや京豆腐とともに濃厚な甘辛醤油で煮詰めている。鶏肉だけでなく、九条ネギの甘さと食感も絶妙だ! 漬ける卵は当然のごとく地卵で、割った途端に黄味がプルンと立つほど新鮮。これには、もちろん濃醇な無濾過純米酒を合わせたい。また山廃仕込みなど、酸味のある酒にも合わせてみてはいかがだろう。そして、2品目は純粋な京風の「生麩のあんかけ(¥600/税別)」。女性に人気の献立だ。老舗の生麩を使った淡白な味わいで、ホロリと苦みのある菜の花を添えている。これには、スッキリとした口当たりの純米酒がふさわしいだろう。



また、馳走いなせやでは、無濾過生原酒におすすめの季節の旬や珍味を15種類の肴にして、2次会のゲストにも好評だ。
春には中庭の新緑を愛でながら、夏には夜風に憩いながら冷酒を傾けるのもいい。平均客単価は¥6,000~¥8,000。座席数は70席(カウンター12席、テーブル・座敷等58席)と余裕の空間。家族やグループでの京都散策の折にも、利用してみてはいかがだろう。

馳走いなせや http://chisouinaseya.com/
京都市中京区三条柳馬場上ル油屋町93
電話:075-255-7250
営業時間:ランチ 11:3014:00
ディナー 17:0023:00L.O.22:30
定休日:不定休


2020年4月2日木曜日

寿光イチオシの店紹介 VOL.1 「酒肴人」

コロナウィルスの影響で、大阪の日本酒がうまい料理店が次々と営業を自粛しています。
そして、そんな状況を歯がゆく見守るしかない私に何ができるのか。
酒食ジャーナリストなのに手をこまねいていては、生涯、後悔するにちがいないのです。
だから、コロナが終息した時に、全国の日本酒ファンの皆さんが大阪で飲み食いを楽しめるすばらしいお店を、過去に私が取材した記事からご紹介していきます。
家飲みの肴に、お楽しみ頂ければ幸いです。

VOL.1 「酒肴人」

世界遺産を先駆けた、“日本のBAR”の真骨頂


 ほのかなダウンライトの中に浮かぶ、瀟洒なカウンターテーブル。枚挙にいとまがないほど並ぶ洋酒のボトルには、正統派ブリティッシュスタイルのBARやパブを感じる。しかし、店名は「北新地  酒肴人 (しゅこうじん )」と日本的な趣き。驚いたことに、関西ではめったと口にできない垂涎の日本酒もゲストを待っている。肴や料理は意表を突かれるほどユニークな和風レシピながら、ロハスに徹底して使い切る食材やダシ本来の旨味にゲストの誰もが思わず唸ってしまうだろう。“BARにして、BARにあらず”。その意外性に、筆者は近頃に世界遺産となった、クールな日本料理の魁を見た。
「私が32年前にロサンゼルスで修行した頃、現地のお客様に教えられた“本当の日本のBARの在り方”を追求し続けた形が、この酒肴人です。旨い酒と美味しい肴の相性はもちろん、器のしつらいも愛でながら日本らしい酒と食を楽しみ、語り合える店創りが私の生涯テーマです」
 そう語るのは北新地のみならず、バーテンダー界で活躍してきたオーナーの高村光有(たかむら こうゆう)さんだ。飲食のプロフェッショナルとして41年のキャリアを持ち、一流ホテルのバーテンダーを皮切りにアメリカのレストランBARでシェイカーを振り、帰国後は大阪を中心に人気のショットBARやダイニングBARなどをプロデュースし続けてきた。知る人ぞ知る、まさに食い道楽の大阪にとって宝物のような人物だが「私は、あくまで職人としての道を追い求めてきただけですよ」と謙遜する。そんな高村さんを師匠と慕うバーテンダーや親交のある料理人たちは、口を揃えて「親方」と呼ぶ。



孤高のバーテンダーから、異彩を放つ親方の道へ

さて、今では関西の酒と食の後継者も育成している重鎮の高村さん。若かりし頃からの来し方に、その腕前を納得できる。大阪のホテル時代、若輩バーテンダーながら料理にも興味があった親方は、おつまみも独学で考案。その後、芦屋のBARに勤めたが、転機の訪れは27歳の時だった。ロサンゼルスで働く友人の誘いを受けて、単身現地のレストランBAR“SHOGUN HOUSE”に、孤高のバーテンダーとして武者修行に飛び込んだ。
「まずは、ロサンゼルスの本格派バーテンダーが見当たらないことに絶句しました。とにかく酒も料理も大雑把なのです。だから、酒にうるさいイギリス人のゲストは私の創るカクテルを高く評価してくださって、近隣の町からも『本物のバーテンダーがいると聞いて来た!』と大盛況でした」
 BARの運営を一任され、高村流のオリジナルメニューを考案し、そこには日本酒やおつまみもアレンジした。これがセレブなお客様に大ヒットしたわけだが、反面、一様に声を揃えたのが『なぜ、日本にこんなBARがないの? 東京でも大阪でも、どこに行っても外国をそっくり真似したBARしかないじゃないか? 日本のBARなら日本酒を置くのは、当たり前だろ?』との詰問だった。
「まさに、目から鱗でしたね。胸に手を当てて、丁寧で繊細な仕事を誇りにする日本らしいBARとは何かを問い直す機会を頂きましたよ。そして考え悩んだ末に、肝心なのは日本国内のお客様の嗜好を変えることだと閃きました」
 アメリカの現状から察するに、このままでは自らの技の向上だけでなく、日本のBAR業界も将来はないと気づいた。一念発起して帰国した高村さんは日本酒や焼酎、梅酒も揃える、独創的かつ新進気鋭のレストランBARやカフェBARをプロデュースする。さらには“BARマンズ コミュニティ”など関西におけるカクテルコンペを独自に主宰。次代のバーテンダーの魁となって突っ走り、数々の功績と技を持つ“親方”として異彩を放っている。


 旨い! を尽くす酒の肴、その原点から生まれるロハスなメニュー。

 酒肴人 三昧人には800種の酒類、60種類を超える料理や肴のメニューがあり、毎夜、健啖家たちを満悦させている。それを創り出す食材を無駄にしないのも高村さんのモットーだ。“ロハス”をサブテーマを掲げ、例えば刺身を切り取った鰤の中落ちやアラは骨ごと炙って常連客に出したりする。日本酒ツウには、盃が止まらないつまみだ。筆者が絶賛したいのは、ダシの美味しさ! 鰹と昆布の風味は舌の奥まで余韻を引くほど素晴らしく、日本酒と相まって体の隅々まで旨味をしみわたらせる。そんなロハス嗜好を生かした逸品の一つが「ふぐ三昧」。とらふぐの“皮身”、その身側にある“とおとう身”、てっさの“ぶつ身”の三種類に白菜とあさつきを加え、ポン酢で食べる。
「隠し味に、特製のバラ揚げをふりかけています。これも海苔や海老などをきちんと始末して、揚げ玉にした物です」
 心地よい食感や旨味が、なめらかな純米吟醸や純米酒にピッタリだ。二品目の「しょうが千本」も素朴ながら、手の込んだ肴。京揚げを30分間炒り、土しょうがの千切り、じゃこ天の塩味だけで味をつける。これには、ぬる燗の熟成酒がオススメだろう。
さて、あなたも今宵は酒肴人の一人に、ぜひ、加わってみてはいかが。



・アドレス
北新地 ロハス 和彩処   酒肴人 三昧人
大阪府大阪市北区堂島1-3-16
堂島メリーセンタービル2F  電話:06-6341-5080