2020年4月11日土曜日

寿光イチオシの店 VOL.4 「きん弥」

非常事態宣言で、神戸も自粛要請中。それでも、孤軍奮闘している路地中の名店が「きん弥」さんです。三宮界隈では知る人ぞ知る、ミシュラン級の酒と肴!
絶品は、「半殺し」と命名された鯖寿司です。


        究極の鯖が日本酒ツウを虜にする、三ノ宮の隠れ家割烹。


うまい魚を食べさせる店は関西の繁華街のそこかしこに犇めいているが、「うまい鯖」となれば話はちがう。日本酒ツウにとって、大衆魚の鯖は晩酌の友。とりわけ“きずし”と呼ばれる酢でしめた鯖や、箱寿司の“バッテラ”は伝統の浪花魚菜である。しかし、そんじょそこらの鯖料理が足元にも及ばない逸品でもてなす割烹が、神戸三ノ宮にある「きん弥」だ。常連客があまりの美味しさに“半ごろし”と名付けたしめ鯖は、あたかもミディアムレア! 半生極上のぶ厚い鯖の身に、ほんのりと優しい味わいの酢がしみて、ありきたりなきずしとは一線を画している。


「腹の身がしっかり肥った25㎝ほどの鯖を選びます。産地は東北から九州までいろいろですが、味の秘訣はしめる酢のブレンドにあります。ただし、それは企業秘密ですよ」
そう言って、丁寧な仕事をカウンター越しに見せてくれるのが、料理長の成田欽弥(なりた きんや)さん。鯖料理を筆頭に、“鯛シュウマイ”や“生ウニ入り味噌汁”が関西の新聞・雑誌に紹介される、知る人ぞ知る名店のオーナでもある。きん弥はカウンター10席、座敷6席の小ぢんまりとした店内だが、昭和レトロな雰囲気と成田さんの技ありの肴を目当てに、日本酒好きな年配客でにぎわう。そんな常連客を虜にしているのが、半ごろしと人気を分ける“鯖寿司”だ。脂ののった寒鯖はもちろん、シャリの美味しさに筆者は唸った! ピリリとした山椒と刻んだ大葉を混ぜ込んだ絶妙の隠し味! 特性ブレンドの酢を使ったシャリの口当たりも、しっかりと食べごたえがある。


「新米じゃだめなんですよ。米の乾いた古米の方が、酢の味が効いて、しかもベタつかないから、鯖の美味しさを引き立てます」
 成田さんが用意してくれた一杯は、この鯖寿司にふさわしい青森の陸奥八仙(むつはっせん)。濃厚な純米酒のコクが、鯖の旨みと渾然一体となって胃の腑に落ちれば、誰もが口福のため息を洩らしてしまうだろう。

            元・クリエイターのセンスが光る、独創的な献立。

 きん弥の献立は鯖料理のほか、朱塗りのカウンターに並ぶ大皿料理やおでんなど10種類。だが、どれもが独創性に富んでいる。そのアイデアと工夫の理由を訊ねて、なるほどと得心した。

「料理は独学なんですよ。36歳できん弥を始めるまでは、録音スタジオでミキシングの仕事をしてました。技術がアナログからデジタルへ変わる頃に、一念発起して料理人へ転身したのです」
 大阪芸術大学を卒業し、マスコミ業界に入った成田さんだが、根っからのアナログ派だった。出身は関西から遥か彼方の青森県津軽。少年時代から見知らぬ関西の地に憧れていたと、笑顔を浮かべる。しかし、かつての敏腕ミキサーが、いきなり料理人として通用したのだろうか。


「実は、ほとんど板前修行はしていません。私の回りにはいろんな仲間や友人がいまして、よく彼らを集めて、手作り宴会を催していました。みんな『お前なら、すぐ料理人になれるよ』と後押ししてくれましたよ」
 きん弥を開店するやいなや、そんな身内が足しげく通い始め順風満帆となった。しかし、平成7年に発生した阪神淡路大震災で、きん弥の店内は悉く崩れ、水や電気、ガスも途絶えてしまった。
「文字通り路頭に迷って、道路端に七輪コンロを並べて焼き鯖を売りました。これが好評で、見知らぬお客様から“いかなごの釘煮”を売る提案も頂き、再起する勇気をもらいました」
 決して諦めなかった成田さんの気骨には、シバれる津軽に育った“じょっぱり魂”を垣間見るようだ。


            生涯忘れ得ぬ、究極の鯖料理との出逢い。

 28年目を迎えたきん弥は、日本酒へのこだわりも素晴らしい。成田さんは、オープン当初に秋田県の酒販店と出逢い、地元にあふれる灘の定番酒と差別化を図って、爾来、東北の地酒にこだわっている。今では、成田さんが吟味した15種類の日本酒を常時取り揃えている。これにピッタリの「半殺し(¥1,200/税込)」は、しめる酢がとっておきなのだ。当初、成田さんは鳥取県の倉吉にある極上の酢に目をつけたが、あまりの高値に元・クリエイターの血が騒ぎ、自ら同じ味わいの酢をブレンドして仕上げることに成功した。鯖の身は柔らかく、味はまろやか! これには東北のコシのある純米酒を、ぬる燗で合せたい。


 そして筆者から舌も心も奪ったのが、予約しなければ口にできない「鯖寿司(¥2,500/税込)」。 暑さ1㎝近い切り身! しっかりとしたシャリに大感激! 大葉と山椒の緑を散らせた香りに、思わず唾が湧いてくる。醤油を使わずそのまま食べれば、成田さんの的を得た味つけの工夫に脱帽だ。誰もが生涯忘れ得ぬ鯖寿司と絶賛し、リピーターの多さから、きん弥ではクール便でも販売している。また煮物も人気で、この日は皮つきの鯨を塩味だけでじっくりと煮込んだおでんが、仕上がっていた。



平均客単価は¥4,000~¥5,000。営業時間はお客様が帰るまでと、心憎い答えが返って来た。神戸・三ノ宮で屈指の鯖料理! 今夜は足を伸ばして、きん弥で一杯いかが。


神戸市中央区中山手通1-7-22 鈴木ビル 1F
電話:078-391-1714
営業時間:1:00~お客様が帰るまで
定休日:日曜、月曜、祝祭日


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